「効果的な広告を出したい」「SNSで集客を強化したい」と意気込むがあまり、広告で過度な表現や根拠のない訴求をしてしまい法的トラブルに巻き込まれてしまうケースは少なくありません。しかし、法律をしっかり理解しておくことで、リスクを回避しながらも効果的なマーケティング施策を行うことができます。本記事では、景品表示法や薬機法をはじめとする業界別の法律と規制について詳しく解説します。広告における法律の重要性と傾向について広告活動において法律を理解することは、マーケティング活動の成功とリスク回避の両立をするために重要です。近年はSNSやデジタル広告の普及により規制が強化されており、すべてのマーケティング従事者が知っておくべき基礎知識となっています。法律を知ることは広告の「守り」を強化する広告活動において、魅力的な表現で商品やサービスの価値を伝えることは、いわゆる「攻め」の部分です。一方で、法律やガイドラインを守ることは「守り」の部分だといえます。広告における法律を把握・理解しておくということは、単なる制約ではなく、トラブルを未然に防ぎ企業の信頼を守る強固な盾となります。たとえば、「業界No.1」「最高品質」といった表現を使う場合には、根拠がないまま使用すると「優良誤認」となり、行政処分の対象になるだけでなく、顧客からの信頼を損なうことにも繋がります。法律違反による企業リスクと事例について法律を違反することで、どのような規制やリスクがあるのか解説します。広告に関する法律違反は、民事責任、刑事責任を負ったり、行政処分の対象となるだけでなく、顧客からの信頼を失い、社会的信用、売上の減少、株価の下落など、広範囲に渡って影響を及ぼす可能性があります。具体的には、法律を違反すると以下のような処分をうけます。主な法律違反のリスク消費者庁による措置命令課徴金の納付命令業務停止命令や業務改善命令刑事罰民事訴訟のリスクこのように法律違反は重大なリスクとなるため、広告・マーケティング活動では慎重に法令チェックする必要がありますね。どのような広告が違反となるのか通常価格で販売したことがないのに「定価○○円→特価××円」と表示したり、実際よりも優れているかのように見せかけた比較広告、効果を誇張した健康食品の広告などは、行政処分を受けるよくあるケースです。特に健康食品や化粧品業界では、薬機法違反による摘発も増加しており、「病気が治る」「確実に痩せる」といった医薬品的な効能をうたった広告により、業務停止処分を受けた企業も少なくありません。参考:景品表示法関連報道発表資料 2024年度 - 消費者庁近年の法規制強化の傾向近年、デジタル化の進展に伴い、広告に関する法規制は強化される傾向にあります。特に以下の分野で規制が厳しくなっています。AIによってさらに監視体制の強化の動きAIによる監視体制強化の動きとして、消費者庁の研究会報告書では、AIを活用した虚偽・誇大広告等のモニタリングシステムの構築が提言されており、実現すれば違反広告の発見精度と速度の大幅な向上が期待されています。また、消費者からの通報システムの充実化についても言及され、違反事例の早期発見体制の整備が求められています。参考:デジタル社会における消費取引研究会 令和 7 年 6 月 19 日 - 消費者庁取引対策課ステルスマーケティングの規制2023年10月から、ステルスマーケティングいわゆるステマに対する景品表示法の規制が開始されました。これは、広告であることを隠して行われる宣伝活動を「不当表示」として規制するものです。インフルエンサーに報酬を支払って商品紹介をしてもらう場合は、一般消費者にとって、表示内容全体から、事業者の表示であることが分かりやすい表示となっている必要があり、例えば、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言がわかりやすく表示されていることが必要となります。「#PR」や「#広告」とのハッシュタグが表示されていても、他の大量のハッシュタグに埋もれてしまうようでは表示として適法にならない可能性もあります。違反すると措置命令の対象となります。参考:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。- 消費者庁景品表示法の基本景品表示法は、広告を作る時に一番よく関わる法律で、お客さんが誤解するような表示や行き過ぎた景品を防ぐルールです。どんな業種でも適用され、違反してしまうと行政からの命令や課徴金の支払いが求められることがあります。優良誤認と有利誤認の違い景品表示法では、消費者を誤認させるおそれのある表示を「不当表示」として禁止しています。不当表示は大きく「優良誤認」と「有利誤認」の2つに分類されます。優良誤認とは商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示すことや、競争事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことです。たとえば、食品で「無添加」と表示しているにも関わらず実際には添加物を使用していたり、ハンバーグで「国産牛100%」と謳いながら輸入牛肉も含まれている場合などが該当します。なお、この場合、食品表示法違反にも問われ、行政処分のや指導の対象になります。また、一般向けと同様の仕様であるにも関わらず「プロ仕様」と表示したり、中級グレードの素材を使用しているのに「最高級素材使用」と表示することも優良誤認となります。有利誤認とは商品・サービスの価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると示すことや、競争事業者に係るものよりも著しく有利であると示すことです。よくある事例として、期間限定のキャンペーンとしているが、実際には期間は限定されておらず、実質的には常に値引きをしているといった、実情と異なっているケースがあります。参考:有利誤認の措置事例 - 消費者庁また、客観的な比較データがないにも関わらず「他社より20%安い」と表示したり、恒常的に同じ価格で販売しているのに「期間限定50%OFF」と表示することも有利誤認に該当します。SNSマーケティングにおける景表法適用のポイントSNSを活用したマーケティングも景品表示法の適用対象となります。企業公式アカウントの投稿はすべて広告表示として扱われ、インフルエンサーに報酬を支払って依頼した投稿はステマ規制の対象でもあります。重要なのは広告表示を明確にすることです。「#PR」「#広告」「#提供」などのハッシュタグを投稿の冒頭や目立つ位置に、かつ他のハッシュタグに埋もれないように必ず記載し、Instagramのストーリーズ等でも忘れずに表示する必要があります。また、誇大な効果表現や根拠のない比較表現は避け、インフルエンサーとの契約書には景表法遵守条項をしっかり記載することが大切です。SNSは消費者との距離が近いからこそ、より一層の注意が必要です。業界別の広告規制についてここからは、業界別の法律について詳しく見てきます。景品表示法は全業種に共通するルールですが、それぞれの業界には独自の規制や注意すべきポイントがあります。不動産、医薬品・健康食品・化粧品、製造業、美容・エステなど、主要な業界ごとに押さえておくべき法律と実務での注意点をご紹介します。不動産業界の広告規制宅地建物取引業法と不動産公正競争規約のポイント不動産業界では、宅地建物取引業法、景品表示法、不動産公正競争規約という3つの法律・規約が広告のルールを決めています。宅建業法では、まだ完成していない物件の広告を出す時期に制限があったり、嘘や大げさな広告を禁止しています。不動産公正競争規約は業界が作ったルールで、より詳しい表示の決まりがあります。たとえば、最寄り駅からの徒歩時間は道路距離80メートルを1分として計算し、1分に満たない場合は1分に切り上げることになっています。これらのルールを守ることで、お客さんが正確な情報をもとに物件を選べるようになっています。なお、不動産公正競争規約は協議会に加盟の不動産業界団体(正会員)が申し合わせた自主規制ですから、その規制の対象は加盟事業者団体の会員(会員事業者)です。規約に参加しない事業者(宅地建物取引業者)が行った広告・表示については、公正取引委員会が景品表示法に基づき規制しており、排除命令などの行政処分を行います。公正取引委員会が不当性を判断する際にはこの規約が参酌されます。参考:不動産広告のルール - 公益社団法人全日本不動産協会物件広告における表示義務と禁止表現不動産広告では所在地、交通の便、面積、価格、取引態様などの必須表示事項があります。とくに「980万円→780万円」といった二重価格表示は原則禁止されており、実際に通常価格で販売した実績がない場合は景表法違反となります。参考:二重価格の表示 - 公益社団法人全日本不動産協会Web・SNSでの不動産広告における注意点インターネットやSNSでの不動産広告もこれまでの媒体(ポータルサイトなど)と同様の規制が適用されます。InstagramやTikTokなどのプラットフォームを用いた広告でも、必要な表示事項をすべて記載するか、詳細情報ページへのリンクを必ず設置する必要があります。物件写真の過度な加工や実際とは異なる写真の使用は、虚偽表示となるため注意が必要です。また、文字数制限があるSNSでは、基本情報を省略せず、法令遵守を最優先とした投稿を作成する必要があるので注意しましょう。医薬品・健康食品・化粧品業界の広告規制薬機法の罰則薬機法(旧薬事法)は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器などの、品質や安全性を確保する法律です。広告規則に違反した場合は2年以下の懲役、200万円以下の罰金、さらに2021年から導入された課徴金制度により売上の4.5%の納付命令を受ける可能性があります。参考:医薬品等の広告規制について- 厚生労働省健康食品広告における禁止表現と許容範囲健康食品は「食品」であるため、医薬品のような治療効果や病気予防効果を謳うことは禁止されています。「血圧が下がる」「糖尿病に効く」「がんを予防する」といった医薬品的効能効果の表現は薬機法違反となります。一方、「健康維持をサポート」「栄養補給に」「美容と健康に」といった範囲であれば許容されます。機能性表示食品や特定保健用食品は届出・許可された範囲内での表現が可能ですが、それでも治療効果を示す表現は禁止されています。参考:栄養や保健機能に関する表示制度とは- 消費者庁化粧品広告の効能効果表現のガイドライン化粧品の効能効果は薬機法で56項目が定められており、この範囲内でのみ広告表現が可能です。「肌を清潔にする」「うるおいを与える」「肌を整える」などは認められていますが、「シワを消す」「シミを除去する」「毛穴が消える」といった医薬品的効果や身体の構造・機能への影響を示す表現は禁止されています。また、使用前後の写真を使用する場合も、化粧品の効能効果の範囲を超えた印象を与えないよう注意が必要で、適切な注釈の記載が求められます。参考:化粧品の効能の範囲の改正について - 厚生労働省製造業の広告規制製品安全に関する表示義務と優良誤認の事例製造業では消費者の安全確保のため、製品安全4法(消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガス法)により安全基準への適合表示が義務付けられています。PSCマークやPSEマークなどの安全マークを取得していない製品に「安全認証済み」と表示することは優良誤認となります。参考:製品安全法令の概要 - 経済産業省JIS規格・業界規格の表示ルールJIS規格や各業界規格を取得した製品の広告では、正確な規格番号と適用範囲を明示する必要があります。「JIS認定」という表現は不適切で、正しくは「JIS規格適合」または「JIS○○○○適合」と表示します。画像引用:JISマーク表示制度- 日本規格協会グループまた、一部の仕様のみがJIS規格に適合している場合、製品全体がJIS規格品であるかのような誤解を招く表示は避けるべきしょう。原産国表示と「Made in Japan」の適正な使用方法「Made in Japan」表示は、製品の実質的な変更が日本で行われた場合にのみ使用できます。単に日本で組み立てや包装を行っただけでは原則として表示できません。部品の多くを海外で製造し日本で最終組み立てを行う場合は、「日本製(組み立て)」などの注釈が推奨されます。美容・エステ業界の広告規制医師法・医療法との境界線美容・エステ業界では医師法・医療法により、医療類似行為を連想させる表現はとくに厳しくに規制されています。「治療」「療法」「医学的」といった医療を想起させる用語の使用は禁止されており、「ケア」「お手入れ」「美容法」などの表現に留める必要があります。また、「しわが消える」「たるみが治る」「肌質が改善される」など、身体の構造や機能に影響を与えるような効果を謳うことも違反となります。特定継続的役務提供としての表示義務エステなどのサービスは特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当し、契約期間が1か月を超え、金額が5万円を超える場合は法定書面の交付や一定期間内の無条件解約(クーリングオフ)が認められています。参考:美容医療サービスはクーリング・オフできる? - 国民生活センター広告では、サービス内容、期間、費用を明確に表示し、中途解約の権利についても分かりやすく記載する必要があります。「今なら半額」「期間限定価格」などの表示を行う場合は、通常料金での提供実績が必要で、有利誤認表示とならないよう注意が必要です。ビフォーアフター写真使用の制限と成功事例の提示方法ビフォーアフター写真の使用は可能ですが、写真撮影の条件(光の当て方、角度、時期など)を統一し、加工や修正を行わないことが原則です。また、写真に「個人の感想であり、効果には個人差があります」などの注釈を必ず記載する必要があります。成功事例を紹介する場合も、特定の結果を保証するような表現は避け、「このような方もいらっしゃいます」といった表現にとどめるべきでしょう。マーケティング担当者が行うリスク回避の方法社内チェック体制を構築する広告・マーケティング活動における法令違反を防ぐためには、組織的なチェック体制の構築が不可欠です。広告制作から公開までの各段階で複数人によるダブルチェック体制を整備し、法務担当者や上司による最終確認をします。また、業界別の法規制に関するチェックリストを作成し、景品表示法や薬機法などの重要項目を漏れなく確認できる仕組みを整えることが重要です。外部専門家との連携する広告に関する法律は複雑で日々変化するため、弁護士や行政書士、広告代理店などの専門家と協力することが大切です。顧問契約を結んでおけば、ちょっとした疑問から緊急事態まで、いつでも相談できて安心です。新しい商品の広告を始める前に専門家にチェックしてもらうことで、問題を事前に防ぐことができます。また、普段お付き合いのある広告代理店にも、チェック機能を含めた制作をお願いできるか相談してみましょう。薬機法や景品表示法に詳しい専門家とつながりを持っておくことで、業界ならではの悩みにもしっかりと対応してもらえ、最新の法律情報もキャッチできます。トラブル発生時の初期対応フローを作成しておくもしも広告で問題が起きてしまった時のために、あらかじめ対応の流れを決めておくことが大切です。問題を見つけたらすぐに誰に報告するか、責任の所在をハッキリさせ、24時間以内にチーム全体で情報を共有できる仕組みを作っておきましょう。そして、問題のある広告はすぐに止めたり削除したりできるよう、手順を整えておくことで被害の拡大を防げます。まとめ景品表示法や薬機法の基本を理解し、社内でのチェック体制を作ることで、安心してマーケティング活動ができるようになります。法律は決して難しいものではなく、お客さんに信頼される企業になるための大切なガイドラインです。今回ご紹介した内容は、どれも実際の広告制作でよくある注意点です。すべてを一度に覚える必要はないので、まずは自分の業界に関係する部分から少しずつ確認してみてください。正しい知識があることで、安心して広告作りに集中できるようになります。