人口減少により採用難と言われる時代、求人を出せば応募が来るというわけではなく、採用の難しさを実感されている方は多いのではないでしょうか。自社の求めるスキルを持ち、価値観もマッチする人材に出会うことは簡単ではありません。思うように応募が来ないとき、「もっと多くの人に知ってもらわなければ」と、掲載する媒体を増やしたり、広告を出したり…と様々な手を打つと思います。もちろん、それも大切なことです。しかし、ただ求職者に知ってもらうだけでは応募には繋がりません。求職者は、仕事内容・会社の風土・人間関係・条件面など、様々な観点から「本当にこの会社で望んだ働き方ができるか?」を判断しています。求職者の不安を解消し、「ここで働きたい」と思ってもらうには、企業の"中"を見せる情報発信も重要になります。今回は、設計士の人手不足に悩んでいた工務店クライアントが、社員インタビュー記事の制作によって採用につながった事例をご紹介します。この記事では、実際にインタビュー記事を制作した私自身が「何を考え、何を意識して作ったのか」も含めてお伝えしますので、参考になれば幸いです。注意:以下の事例は私たちの状況に基づくもので、全てのケースに当てはまるわけではありません。社員インタビュー記事が設計士の採用につながった事例クライアントは、もともと自社HP内の採用サイトと、大手の採用媒体などを活用して採用活動を行っていました。今回、「人手不足により早急に設計士を採用したい」とご相談をいただき、サイト分析を行ったうえで応募獲得のために施策を進めていきました。まずは前提情報と課題について整理します。前提と課題クライアントは、注文住宅事業を主力とする地域密着型の工務店です。すでに転職エージェントやスカウトサービス、求人サイトなど複数の求人媒体に掲載していましたが、応募は発生していない状態でした。業種工務店目的設計士の採用対象とする施策採用サイトのコンテンツ制作(社員インタビュー記事)課題自社の採用サイトだけでなく、複数の採用媒体に求人を出しているが応募が来ない。人手不足のため、早急に設計士を採用したい。採用サイトを分析したところ、流入が極端に少ないわけではありませんでした。ただ、全職種の求人票閲覧数に対する応募率は0.5%。一般的な応募率(0.5〜1%)と比較しても、伸ばす余地が十分にありました。当時、採用サイトの中には、社員の日常を紹介するブログが数本公開されていました。しかし、採用トップや募集要項のページと比べるとほとんど閲覧されていません。せっかく用意したコンテンツが、求職者に届いていない状態でした。今回は、この課題に対する仮説から施策、検証結果までの過程をご紹介します。課題に対する仮説この課題に対して、採用サイトの分析結果をもとに、以下の仮説を立てました。求職者が知りたい「働いている人の情報」が、サイト上にないのでは設計士向けの募集要項ページは、採用サイトのトップページに次いで多く閲覧されていました。ページを実際に見ていたアクティブな時間を示す「平均エンゲージメント時間」が長いことや、1人あたりの閲覧回数が多いことからも、しっかりとページを読み込んでいるユーザーは確かにいるはず。それでも応募が発生しないのは、求職者が「この会社で働きたい」と思えるだけの情報が足りないからだと考えました。求職者が知りたい情報のヒントになったのは、ほとんど閲覧されていなかったブログの中で、最も読まれていた記事です。ある設計士の方の仕事風景を紹介する記事でした。募集要項に仕事内容や条件は記載されていますが、その情報だけで自分が働いている姿を具体的にイメージするのは難しいと思います。だからこそ、実際にどういう人が、どんな仕事をしているのかを知りたいのではないかと考えました。ところが、その記事は社内の日常を切り取った内容だったので、職場の雰囲気は伝わるものの、実際にどんな仕事をしているのか、何を考えて働いているのかまでは触れられていませんでした。そこで、「どんな人が、どんな想いで働いているのか」が伝わる社員インタビュー記事を作れば、求職者の不安を減らし、応募を後押しする判断材料になるのではないかと考えました。仮説に対して行った施策上記の仮説をもとに、社内で活躍されている設計士の方に取材をし、インタビュー記事を制作しました。また、作成した記事を読んでもらえる状態を作るため、採用サイトへの流入数を増やすことを目的に、Meta広告での広告配信も開始しています。ここからは、インタビュー記事の制作にあたって私が意識したことをご紹介します。1.「何をしたか」ではなく「なぜそう思ったのか」を深掘りするインタビューのために、テーマごとに軸となる質問と、深掘りをするためのサブ質問を用意していました。仕事内容や経歴を確認するだけの、一問一答にならないようにするためです。質問の回答に対して、「なぜその選択をしたんですか?」「そう思うようになったきっかけはありますか?」などと一歩踏み込んで聞くことで、行動の裏にある考え方や価値観まで引き出すことを意識していました。2. 実際に設計した事例と、そのこだわりを語ってもらう求職者が知りたいのは、「入社したら自分は何をするのか」という具体的なイメージです。実際どんな業務が発生するのかが少しでも伝わるよう、設計士の方が手がけた事例についても具体的に話を伺いました。「このお客様はこういう趣味を持っている方だったので、こんなことを提案したんです」というような、エピソードを語っていただいたことで、設計士の方が何を考えて働いているのかが伝わりやすくなりました。3. 取材中に見つけた、個人と会社の価値観の重なりを、記事の軸に据える質問を深掘りしていくうちに、その方の人生経験からくる設計観と、会社が大切にしている価値観が、自然に重なっていることに気づきました。話を聞きながら、「こういう経験や想いがあったから、この人はこの会社で働いているんだ」と、私自身が納得できたのです。この重なりこそが、設計士の方の想いを伝える上でも、会社の想いを伝える上でも一番重要になると考え、記事全体の軸に据えました。会社が自ら「私たちはこんな想いを大切にしています」と語る以上に、そこで働いている社員が、自分自身の経験として語る方が強い説得力が生まれると考えました。4. 取材者である私自身が感じた魅力を、言語化の起点にする取材中、設計士の方の想いに、私自身が心を動かされた瞬間がありました。設計士の方が、その家に住む人の暮らしに本気で向き合っていることが、言葉の端々から伝わってきたのです。話を聞き終える頃には、「私も家を建てるなら、この人に相談したい」という気持ちが自然と湧き上がっていました。記事を書くときには、取材者である私が一人の読み手として心を動かされたポイントを言語化して伝えることを意識しました。私が感じたこの方の魅力をそのまま伝えられれば、読んでくれた求職者にも同じように届くはずだ、と思えたからです。5. 1人の人間のストーリーとして描くインタビューは、仕事の話だけでなく、設計士を志したきっかけやキャリアの転機まで含めて、1人の人間のストーリーとして描きました。似た境遇や価値観を持つ求職者が、「自分もここで、こんなふうに働けるかもしれない」と自分を重ねられるようにするためです。6. 誠実な書きぶりに徹する他社を下げるような表現や、自社を誇張する表現は使わないこと。実際の仕事における大変さも隠さないこと。これらは、書きぶりのルールとして心がけていました。求職者の不安を減らすのは、良いことだけを並べた情報ではなく、実態がそのまま伝わる誠実な情報だと考えたためです。また、実態と異なる情報を発信すれば、入社後のミスマッチになる可能性があります。自社に合う人材を採用するためにも、誠実に、実態に即した情報を伝えることが重要だと考えています。施策から得られた結果インタビュー記事の公開後、設計士1名の応募があり、採用にいたりました。クライアントから応募された方に確認いただいたところ、「インタビュー記事を見て応募した」と仰ってくださったそうです。※画像:実際に作成したインタビュー記事の一部この方はもともと施設設計の経験をお持ちで、「住宅の設計に携わりたい」「自由度の高い設計ができる環境が魅力に感じた」ことが応募の動機だったそうです。これは、まさにインタビュー記事の中で設計士の方に語っていただいた、この会社で働く魅力と重なっていました。インタビュー記事が、クライアントの魅力を正しく伝えられたのだと思います。また、記事のアクセスデータを確認したところ、以下のような結果が得られました。記事公開前1ヶ月の平均エンゲージメント時間記事公開後1ヶ月の平均エンゲージメント時間ある設計士の方の仕事風景を紹介する記事(※記事公開前に最も読まれていたブログ)27秒(アクティブユーザー数:20)42秒(アクティブユーザー数:11)社員インタビュー記事-1分07秒(アクティブユーザー数:129)インタビュー記事のほうが文章量がある点や、広告で直接集客している点は考慮すべきですが、それでも既存の記事よりじっくり読まれていたと考えられます。さらに、インタビュー記事を読んだ後に6名のユーザーが応募フォームへ遷移していました。記事公開前の1か月間は応募フォームへのアクセス数が7名だったのに対し、公開後は14名まで増加しています。得られた結果を基にした考察あくまで今回の事例における結果です。すべてのケースに当てはまるわけではないですが、当該検証の結果を受けて、以下のように考察しました。求職者が「応募を決めるために必要な情報」を用意することが重要今回のクライアントは、サイトへの流入が全くなかったわけではありません。流入はあるのに応募につながらない。その原因は、「どんな人が、どんな価値観で働いているか」という、求職者が応募を判断するために必要な情報がサイト上になかったことにあったと考えています。採用活動では、露出を増やすことに目が向きがちですが、せっかく興味をもってくれた求職者の応募意欲を高められる情報を用意できているか、という視点も重要です。「生の言葉」が、会社の価値観に説得力を持たせる会社の理念や強みは、社員個人の実体験を通して語られることで強い説得力が生まれます。今回のインタビュー記事では、社員の方の人生経験と会社の価値観が重なる部分を記事の軸にしたことで、理念が「実感のこもった言葉」として伝わるようになりました。ただし、社員インタビューは、会社が伝えたいことを故意に語ってもらう場ではありません。取材の中で個人の価値観を掘り下げ、社員自身の言葉の中から会社とつながる部分を見つけることで、読者に届く生の言葉が生まれます。価値観まで伝えることで、応募の「質」が上がる今回の応募者は、記事で伝えた会社の強みそのものに魅力を感じて応募してくださいました。働く人の価値観まで伝えるコンテンツは、応募数を増やすだけでなく、自社に合う人からの応募を増やす効果があると考えられます。入社後のミスマッチを防ぐという意味でも、採用コンテンツで価値観を伝えることには大きな意味があります。さいごに求職者にとって就職・転職は、これからの働き方を決める大きな選択です。だからこそ、条件が合っているだけでは応募には至りません。どんな人と働くのか、その人たちは何を大切にしているのか。そこまで具体的にイメージができて初めて、「ここで働きたい」と思えるのではないでしょうか。社員インタビュー記事は、会社の中のリアルな情報を伝えられるコンテンツのひとつです。社員一人ひとりの経験や考えの中にある言葉が、会社の魅力を伝えるものになります。採用コンテンツづくりのヒントとして、少しでも参考になれば幸いです。注意:以下の事例は私たちの状況に基づくもので、全てのケースに当てはまるわけではありません。