「餅は餅屋」という言葉がある通り、仕事でも専門家同士が上手く手を組むことでより大きな成果が得られると私たちは考えています。マーケティングでも同様に、商品やサービスのプロである事業会社とマーケティングのプロである支援会社の連携次第で、成果は大きく変わってきます。今回は両社がどう組むと上手くいく可能性が上がるのか、上手くいった事例や上手くいかなかった事例などを、両方の立場を経験しているふたりの会話をもとに記事化しました。古田:最初に簡単に自己紹介をお願いします。こんぶさん(以下、こんぶ):化粧品D2Cスタートアップの創業メンバーとして参画して、プレイングマネージャーとして10年ほど勤務しました。マーケティング施策全般のインハウス運用、フルフィルメント周りの対応、顧客管理など、事業に関わるほぼ全ての業務を経験しました。月額予算2億円ほどの自社マーケティングを経験したのちに退職して、単品リピート通販の立ち上げ期の支援を行うフリーランスとして独立して今に至ります。古田:ありがとうございます。ぼくの方も。マーケティング支援を行うアルテナ株式会社の古田です。広告代理店ベンチャーでデジタル広告の運用代行を行いながら、別の事業会社でマーケティング部を立ち上げて、支援会社と組みながら7つほどあった自社事業のマーケティングを行なっていました。その後、アルテナ株式会社を創業して今に至ります。今日は「事業会社と支援会社がより大きな成果を出すには、何が大切なのか?」というテーマで喋りたいと思います。事業会社と支援会社がより大きな成果を出すために必要なものは「役割分担」と「思いやり」古田:こんぶさんは事業をする側と支援をする側の両方を経験しましたが、両者が上手くチームとして機能するために大切なことは何だと思いますか?こんぶ:細かいところは本当に色々あるのですが、一番は「役割分担」じゃないでしょうか。お互い得意な仕事で成果を出すために手を組んでいるわけなので、得意な分野や苦手な分野を整理して役割を明確にしないといけないですよね。たとえばバナー画像ひとつとっても、ざっくり6つのステップがありますよね。仮説や課題を用意するアイデア(訴求する内容)を考えるラフ案を作る素材を用意する制作する了承を得るお互いに何をやるとベストなのか、どっちがやるのかを事前に決めないといけません。役割分担が曖昧なままスタートすると、「支援会社がこれもやってくれると思ってたのに...」とか「素材は事業会社が用意してくださいよ」みたいなことが発生しますから。以前私は、新訴求のバナー制作やLPの用意は私(事業会社)で、既存バナーのブラッシュアップと広告運用は支援会社(広告代理店)にお任せしていたことがあります。クライアントのによって役割分担の仕方はもちろん違うのですが、社内で進めるような仕事と一緒で「これはAさん。こっちはBさん。」と必ず業務領域を明確にすべきです。チームで働くときの基本の「き」ですけど、曖昧なまま進めてる会社多いですよね...(笑)古田:よくわかります(笑) どちらかが割を食う関係は続きませんからね、お互いがやるべきことを整理して、やるべきことを全うするのが大事ですよね。こんぶ:逆に古田さんは何だと思いますか?古田:ぼくは「思いやり」ですね(笑) もうそれしかない(笑)役割分担も大事だと思います。でもどうしても分担できないところとか、突発的なアクシデントとか、上手くいかないこととかもあるじゃないですか。そんな時に、思いやりのある行動を取れるかどうか、ですよね。上手くいってる時はなんとでもなるんですよ(笑) ただ上手くいってない時に、お互いに思いやりがないと回復させて成果を出すことは難しいですよね。なんか恋愛の話みたいになってきましたけど、お互いにどれだけ相手の立場に立って考えられるか、何をしたら相手が快適で気持ちよく楽になるのかを考えられるか。お互いにプロフェッショナルなのは前提として、その事業会社と支援会社がタッグを組んで上手くいくために必要な要素は「思いやり」だと思いますね。こんぶ:上手くいってない時に本性が出ますよね(笑) 「役割分担」と「思いやり」”だけ”があれば成果が出るってわけでも当然ないですけれど、 大事な要素ですよね。協業の目的は、お互いの得意を活かし、苦手を補うことこんぶ:事業会社にいた時にいろいろな支援会社にご依頼したんですけど、ちゃんと意見を主張してくれる会社って本当に少ないんですよね。事業会社にいると自社のマーケティングばかり考えるじゃないですか?だから当時、いろいろな会社の支援を経験している人の意見って本当にありがたかったんですよね。だから、どんなアイデアでもいいから言ってほしい!もちろんデータに基づいてたら嬉しいですけど、当時の支援会社は「私の肌感覚ですが...〇〇という理由で、こっちがいいと思います!」って言ってくれたのは心強かったですね。施策の幅も広がりましたし、仮説の根拠が少なくてもPDCAを回すことで成果がでたことは何度もありました。古田:ちゃんと主張しないとダメですよね。逆にぼくは事業会社のクライアントに助けてもらってます。その会社はぼくたちが「マーケティングでこういうデータがあった(施策が上手くいっている)ので、御社内でこんな取り組みしてもらえませんか?」って相談するとすぐに実行に移してくれる。ぼくたちはマーケティング施策の代行はできるけど、事業会社の社員のマネジメントや、商品やサービスを変更することはできない。それを「アルテナさんが言うならやろう」とすぐに乗っかってくれるんです。お互いが手に入れたデータを交換しあって、それぞれの領域で活用できるとマーケティングの成功率が高まるので、こういうクライアントさんには本当に助けてもらってます。ハウスメーカーのオープンハウス(住宅見学会)のやり方をガラッと変えてくれたり、持ってたコミュニティを活かして新規事業を立ち上げてくれたり、海外展開の準備を始めた方もいます。どれも本当にやってくれるとは思いませんでしたが、ぼくたちが提示した小さいファクトを信じてくれて、そこに乗っかってくれるのは嬉しいですよね。こんぶ:それはいいですね!私が事業会社にいた時に助かったことで、今でもクライアントとやっているのが、アイデア大会(=ブレストミーティング)!事業会社内のメンバーだけで施策を考えても、訴求の幅や施策にマンネリ感がでてしまうのですが、いろいろな知見を持つ支援会社とアイデア大会をすると、多角的な視点でサービスやマーケティングを見る機会になるのでとても良いんですよね。今のクライアントともやりますがとても喜ばれます。ただ、「アイデア大会」のような取り組みって、やろうと言ってくれる支援会社さんはあまりないですね。契約期間やフィーの兼ね合いもあるので、やらない=おかしい、とは思わないですけれど。古田:後回しになって、そのままやらない場合も多いですよね。「良い施策」とは、短期目標と長期目標の両方の達成を目指せる施策古田:支援会社は契約期間中に成果を出さないといけないというプレッシャーがあるから、短期目標の達成に躍起になってしまうことが多いですよね。でも、そのために長期目標を無視してしまうのは本末転倒だと思うんです。こんぶ:そうですね。D2Cではよく「ブランド価値」の話が上がりますが、ブランド価値を高めることは、短期的な成果とは違って目に見えにくいものですけど、将来的な成長には欠かせないものですよね。そこを蔑ろにしちゃダメですよね。古田:その通りです。短期目標はあくまで通過点であってゴールではないですからね。弊社のような支援会社に相談されるのは契約期間中の目標達成でも、長期目標の達成はどの事業会社でも当然目指しています。たとえば、事業の持続可能性や、社会的インパクト、顧客満足度の向上、従業員の幸福度の向上などの長期目標はわざわざ教えてくれないです。教えてくれるところもありますけど、僕の経験上ほぼほぼ聞かなきゃ教えてくれない。だからどちらが主導しても良いですけど、意図的に「長期目標(ビジョン、計画、事業目的なども)を聞く場」を作らないといけない。そうしないと支援会社が短期目標だけを追いかけることになって、長期目標を蔑ろにした施策に走ってしまう可能性がありますからね。だから短期目標と長期目標の両方の達成を目指せる施策が「良い施策」なんです。こんぶ:まさに。D2Cでも目先の目標CPAの達成は大事だけれど、それを優先するあまりお客さまを裏切るような施策になっては長期目標は達成できないですもんね。私もクライアントとよく話しますが、ユーザーを無理矢理獲得して初回購入後に嫌われて関係が終わるよりも、気持ちよく購入していただいて何度も購入するファンになってくれる関係を目指すべきです。そうすれば当然、口コミもポジティブになるし、長期的にLTVも変わってくる。人は感情で動く生き物なので、友人・知人が嫌ってる商品はほぼ間違いなく買わない。友達が「この化粧品通販の会社、初回購入するとDMや広告がしつこくて...解約もしづらいし...」と言ってる商品を積極的に買いたい人はいないはずです。そういった定量的なデータに現れないところを気にしないと、長期的に目先のCPAすら達成できなくなってきますよね。古田:友人が買って後悔してる商品を、敢えて買いに行く理由はないですよね(笑)ブランドは顧客との約束を守ることによって作られるこんぶ:ブランドの話が出ましたけど、D2Cでもブランドの価値が上がるとLTVも向上するんです。まあ、因果関係を数字で明確に出すのは難しいんですけど。ほぼ間違いなくある(笑)古田:絶対ありますよね。こんぶ:いろんな検証をしたことがあるんですが、一番わかりやすかった事例があります。カスタマーセンターを作るときに、たくさん電話対応してくれるけど安いところと、丁寧で真摯な対応をしてくれるけどたくさん対応できなくて高いところ、ふたつを比較したことがあります。安い方はどうしても対応が雑なんですね。お客さまから質問されても「わかりません」という回答が多かったり、ひとつひとつの対応が柔軟じゃなかったりする。でも高い方は気配り・心配りができていて、なんとなくの回答ではなく解決するまできちんとお付き合いする。すると後日、高い方のカスタマーセンターで対応を受けたお客様からは「電話対応がとてもよかったので別の商品も買いました」とか「解約するつもりだったのですが話しているうちに続けたいと思い直しました」と回答があったんです。古田:それはすごい。ザッポス(※)みたいな話ですね。※ザッポス(ザッポス・ドットコム:Zappos.com)...アメリカにある、靴のネット通販会社。顧客のリピート率75%と言われるほど、熱狂的なファンがおり、コンタクトセンターの「神対応」がたびたびネット上で話題になります。そんなザッポスについて具体的に書かれた「ザッポスの奇跡」はクライアントワークを行うすべてのビジネスマンにおすすめの良書。こんぶ:そうです。良いカスタマーサポートを行なったことでブランドの価値が上がり、LTVの向上につながった。小さい話ですが、同じようなことって身近に溢れてますよね。だから私はブランド価値を上げればLTVも上がると思っていますし、ブランド価値が見えにくいからといって蔑ろにすると、痛い目に遭うと思っています。古田:その話、よくわかります。ブランドって顧客との約束ですからね。「商品に関してお困りのことやお悩みがあればカスタマーサポートまでご相談ください」と商品のラベルに書いてあるのに、相談したら「分かりません」「知りません」と返ってくるようだと顧客との約束を守れてないですよね。分からなくても後日回答したり、お客さまの悩みをちゃんと聞いたりすれば、まだ約束を反故にしたことにはならない。新しいお客さまを獲得して喧嘩別れをしてまた新しいお客さまを...という事業よりも、新しいお客さまを増やしつつ、既存のお客さまを大切にしてリピートしてもらったり、友だちを連れてきてもらった方が継続性がありますよね。今日のテーマに沿うと、ポイントは、支援会社が事業会社にこういったノウハウを事前に提供して、事業会社の選択を正しくアシストできるか?ってとこですよね。どちらのカスタマーサポートが正しいかどうかではなくて、見えないリスクや可能性をどれだけ伝えられるか。またそれを信じてもらうために、日頃から信頼関係を作れているか。こんぶ:そうですね。事業会社と支援会社が目指すものは同じ事業の成長のはずなので、チームメイトとして忖度なしで意見を述べられるのが良い関係ですよね。編集後記「事業をする側」と「支援をする側」、両方経験して今は「支援する側」に立っている私たちですが、改めて支援する側の責任や難しさを感じると同時に、事業会社と上手く組めた時の爆発力や成長のポテンシャルを感じることができました。しかし、どこまでいっても記事を公開しているのがマーケティング支援会社(弊社)である以上、この手の話はポジショントークになってしまいます。そのため、ここではっきり書いておきますが、マーケティング業務をインハウス(内製化)で行うかアウトソースするか、には正解も正義もありません。インハウスで実施できる体制があり、そちらの方がメリットが大きいのであればインハウス化すればいいですし、マーケティング人材の採用に困っていたり、外部の知見を借りたい、めんどくさいマーケティング業務をアウトソースしたいのであれば外注すればいい。それだけの話です。どちらの選択も、うまくいく可能性もあれば失敗する可能性もあります。選択を正しいものにできるかどうかは、その後の振る舞い次第です。今回の対談をきっかけに、クライアントの事業でより大きな成果を目指せるよう、これまで以上に勉強し、信頼関係の構築に努めなければならないと改めて背筋が伸びました。こんぶ:Twitter / note古田聡:Twitter