マーケティング施策を行う前には、調査・分析が必要といわれますよね。「3C分析」「PEST分析」など、聞いたことがある方やご自身で試してみた方もいると思います。しかし、様々なフレームワークがある中で、どれから手を付ければいいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。私も初めて市場分析をした際は、どのフレームワークから手を付ければよいか分からず右往左往したことがありました。フレームワークは、1つだけ行ってもすべてが分かるわけではありません。だからこそ、フレームワークをうまく活用するためには、適切な順番で分析をすることがポイントです。本記事では、市場分析で使用する主要なフレームワークを、効果的な順番でご紹介しながら、それぞれの特徴と具体的な活用方法について解説します。市場分析を行う目的市場分析とは、自社を取り巻く環境や競合の状況を把握し、効果的なマーケティング戦略を立てるための情報収集・分析です。客観的な分析を行うことで、感覚的な判断ではなく、データに基づいた論理的な戦略立案が可能になります。市場分析を始める前には、分析を行う目的を明確にすることが大切です。市場分析の一環で、調査会社へ依頼をしたり、アンケート調査を実施したりすることがあると思います。しかし、データが取れたことに満足して、実際はそのデータを上手く活用できていないことはありませんか?「分析した結果をどのように活用したいのか」が定まっていない状態で市場分析を始めてしまうと、せっかく行った分析もやって終わりになってしまい、効果的な活用ができません。市場分析はやみくもに始めるのではなく、「なぜ分析を行うのか」「分析した結果をどう活用するのか」という視点で事前に目的を定めておきましょう。たとえば、新商品の開発に向けて市場分析を行うのであれば、現在の市場動向や競合商品の特徴を調査し、ニーズが存在するが競合がカバーできていない領域を見つけることが目的です。この領域を見つけることができれば、分析結果を商品開発に活かすことができます。フレームワークを活用する3つのメリット市場分析を行う際に活用できるのがフレームワークです。フレームワークとは、複雑な市場環境を整理・分析するための、構造化された思考の枠組みのことです。手順に沿って分析を進めることで、漏れや偏りのない客観的な分析がしやすくなります。市場分析においてフレームワークを活用することは、主に以下の3つのメリットがあります。1.分析の網羅性が向上するフレームワークは、分析すべき要素を体系的に整理したものです。フレームワークに沿って分析を進めることで、必要な情報を抜けもれなく網羅的に整理することができます。市場分析では、自社を取り巻く環境、競合他社、自社の状況、ターゲット顧客など、かなり幅広い情報を整理する必要があります。頭の中だけで考えていると、思考が散漫になってしまい、どうしても項目を見落としてしまうことがあります。たとえば、市場全体の動向を把握する前に、いきなり具体的な施策を考え始めてしまうといったケースです。このように情報に抜けもれがある状態では、効果的なマーケティング施策を立案することは難しくなります。フレームワークを活用することで、思考を順序立てて整理することができ、重要な観点や要素を見逃すことなく分析を進めることができます。2.客観的に情報を整理できるフレームワークに沿って情報を洗い出すことで、客観的な分析がしやすくなります。フレームワークを用いずに考え始めてしまうと、考え方が個人の経験や勘に偏ってしまい、主観的な分析になってしまうことがあります。フレームワークは、思考の枠組みとして形が決まっているため、考えるべき視点が自然と定まります。自分一人では思いつかなかった視点も含め、多面的に情報を整理できるため、個人の先入観や思いこみに左右されにくく、データや根拠にもとづいた客観的な分析がしやすくなります。3.効率的に分析が行えるフレームワークを活用することで、分析にかかる時間や人的コストを大幅に削減できます。何から手を付ければいいか分からない状態で分析を始めると、分析を始めた後に手戻りが発生して試行錯誤を繰り返すことがあります。それでは、多くの時間と労力がかかってしまいます。しかし、フレームワークという明確な手順があることで、分析の方向性を大きく間違えてしまう可能性を防げます。やり直しなどの追加コストが発生しにくく、限られた時間の中でも効率よく、質の高い分析がしやすくなります。フレームワークを活用する2つの注意点一方で、フレームワークの活用には以下のような注意点もあります。これらの注意点を理解した上で、フレームワークを効果的に活用することが重要です。1.手段が目的化してしまうフレームワークはあくまで分析のためのツールであり、フレームワークを行うことが目的ではありません。フレームワークの型にはめることばかりに注力してしまうと、本来の市場分析の目的を見失ってしまう可能性があります。そうならないためにも、先述したように、市場分析を行う目的を明確にすることが大切です。2.フレームワークの型に囚われるフレームワークは型が決まっています。型に沿って進められるため、分析がしやすくなる一方で、型に当てはまらない斬新なアイデアや新しい視点を見落としてしまう可能性があります。フレームワークは分析の出発点として活用し、必要に応じて柔軟に応用したり、枠を超えた発想も取り入れたりすることが重要です。フレームワークの種類と使用する順番市場分析を効果的に進めるためには、適切な順番でフレームワークを活用することが重要です。フレームワークは、それぞれ使用する目的が異なります。思いついた順に行き当たりばったりで分析を進めても、それぞれのフレームワークの関連性が見えず、効果的な戦略立案にはつながりません。分析の目的と段階に応じて適切な順番で使用することで、より体系的な分析が可能になります。基本的には、マクロな視点からミクロな視点へと段階的に分析を進めていくことが効果的です。大きく分けて、以下の流れで分析を進めていきます。環境分析戦略設計マーケティング施策設計これから各段階の説明と、使用すべきフレームワークについて解説していきます。1.環境分析まず最初に行うべきは、自社を取り巻く外部環境と内部環境の分析です。マクロ環境からミクロ環境へと順に分析を行い、幅広い視点で市場を把握します。PEST分析PEST分析は、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの観点から外部環境を分析するフレームワークです。Politics(政治的要因)法規制の変化や政策の動向、税制、補助金制度の変更などEconomy(経済的要因)経済成長率や景気動向、金利・為替レートの変動、消費者の購買力、雇用状況などSociety(社会的要因)人口構成や世代の価値観、社会問題、ライフスタイルの変化などTechnology(技術的要因)新しい技術の登場やイノベーション、デジタル化の進展などPEST分析を行うことで、自社のビジネスに影響を与える可能性のある外部環境の変化を把握することができます。市場参入のタイミングを見極めたり、法規制の変化にそなえた事業計画を立てることが可能になります。また、新しい技術トレンドや社会の価値観の変化を把握することで、新商品・サービスの開発機会を発見したり、既存事業への脅威を把握して戦略立案に役立てたりすることができます。私が実際に、子どもの学習教室に関する市場分析を行ったときは、PEST分析によって、私自身が学生だった頃と現在の教育環境は大きく変わっていることに気づかされました。国の教育方針や学習指導要領の変化を調べることで、クライアントが提供するサービスにとって追い風となる政策変化を発見できたのです。自分の経験や常識だけに頼らず、客観的に外部環境を分析することの重要性を実感した瞬間でした。5フォース分析5フォース分析は、業界の競争環境を5つの視点から分析するフレームワークです。業界内の脅威業界内の競合数や市場シェアの分散度、製品の差別化度合いなど新規参入の脅威参入障壁の高さや必要な初期投資など代替品の脅威既存製品・サービスを置き換える可能性のある代替品の存在と普及度買い手の交渉力顧客の数や購買力の大きさ、価格に対する敏感さ、競合他社への切り替えやすさなど売り手の交渉力サプライヤーの数や代替性、原材料の入手しやすさなど5フォース分析を行うことで、業界の収益構造と競争の激しさを客観的に把握できます。業界内での自社のポジションを明確にし、価格戦略や差別化戦略の方向性を検討するのに役立ちます。3C分析3C分析は、Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの観点から分析を行うフレームワークです。Customer(市場・顧客)市場規模や成長性、顧客のニーズなどCompetitor(競合)競合の戦略や強み・弱み、市場シェアなどCompany(自社)自社の経営資源と現在の市場ポジション、強み・弱みなど3C分析を行うことで、市場における自社のポジションと競合優位性を把握できます。まずは、市場・顧客のニーズと競合の動向を把握しましょう。そのうえで、自社の強みを活かすことができ、ニーズがあるものの競合がカバーできていない領域(★の箇所)を特定することで、効果的な差別化戦略の立案に活かすことができます。SWOT分析SWOT分析は、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要素を整理するフレームワークです。Strengths(強み)自社の競合優位性Weaknesses(弱み)改善すべき課題Opportunities(機会)活用すべき市場機会Threats(脅威)対処すべきリスク要因SWOT分析を行うことで、自社の現状と外部環境を総合的に把握し、具体的な戦略を検討することができます。強み(Strengths)を活かして機会(Opportunities)を追求する戦略や、弱み(Weaknesses)を克服して機会(Opportunities)を活用する戦略など、4つの要素を組み合わせ、様々な戦略を比較検討しやすくなります。SWOT分析の詳細な方法については、こちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。関連記事:SWOT分析とは?分析方法や活用事例など 図解を使ってわかりやすく解説2.戦略設計環境分析により現状を把握した後は、具体的な戦略の方向性を検討します。この段階では、分析結果をもとに「誰に」「何を」「どのように」提供するかという戦略の核心部分を決定していきます。STP分析STP分析では、市場を細分化するSegmentation(セグメンテーション)、アプローチする市場を決定するTargeting(ターゲティング)、ターゲットに対する自社の立ち位置を明確にするPositioning(ポジショニング)の3つのステップで戦略を検討します。1. Segmentation(市場の細分化)市場を同じニーズを持つグループに分割する。地理的、人口統計的、心理的、行動的な変数を用いて細分化する。2. Targeting(ターゲット市場の選定)細分化された市場セグメントの中から、自社が狙うターゲット市場を選定する。市場規模や成長性、競合状況、自社の強みなどから総合的に判断する。3. Positioning(ポジショニング)ターゲット市場における自社独自のポジションを明確にする。STP分析を行うことで、限られたマーケティングリソースを最も効果的な市場セグメントに集中投下するための戦略を検討できます。ターゲット顧客を明確にすることで、顧客のニーズに合致した商品開発やコミュニケーション戦略が効果的に実施しやすくなります。地域や年齢、性別でのセグメンテーションだけでなく、顧客のニーズと結びつく心理的・行動的な変数でのセグメンテーションは特に重要です。たとえば、「30代前半の女性」といっても、子どもの有無によってライフスタイルや価値観は大きく異なります。また、子どもがいる方でも、子どもに対する教育方針は人それぞれです。実際に学習教室に関するSTP分析を行った際も、顧客のニーズをベースにセグメントを分けてターゲット選定を行ったことで、その後のペルソナ設計で人物像をイメージしやすくなりました。環境分析の結果と併せて、自社の商品・サービスが価値提供できる市場を検討しましょう。ペルソナペルソナは、自社の典型的な顧客像を具体的な人物として設定するフレームワークです。年齢、性別、職業、趣味、価値観、購買行動パターンなど、詳細な属性を設定し、実在する人物のようにリアルに設定します。※参考画像:弊社がクライアントの初期調査で作成したペルソナペルソナを設定することで、チーム全体で共通の顧客イメージを持つことができます。商品開発、広告制作、販売戦略など、あらゆる意思決定において「このペルソナならどう感じるか」「どんな行動を取るか」という視点で検討できるため、顧客目線に立った一貫性のあるマーケティング活動を展開できます。また、具体的な人物像があることで、「ペルソナに届けるためには」という視点からより効果的なメッセージを作成しやすくなります。ペルソナの価値観や抱えている悩みをできるだけ詳細に描くことで、顧客の共感を得られる施策を考えることができます。ペルソナの詳細な作成方法については、こちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。関連記事:「ペルソナ」とは?概要と作るメリット、作成方法まで解説(ペルソナ作成シート付き)カスタマージャーニーマップカスタマージャーニーマップは、顧客が製品・サービスを認知してから購入、継続利用に至るまでの一連のプロセスを可視化するフレームワークです。顧客が課題やニーズを認識し解決策を探し始める段階から、具体的な製品・サービスを比較検討する段階、実際に製品・サービスを購入する段階まで、各段階における顧客の行動・感情・タッチポイントを詳細に分析します。※参考画像:弊社がクライアントの初期調査で作成したカスタマージャーニーマップカスタマージャーニーマップを用いることで、顧客の視点で自社のマーケティング活動を見直すことができます。各段階での顧客の課題・感情を理解することで、適切なタイミングで適切なアプローチを行う効果的な施策を立案できます。3.マーケティング施策設計最後に、これまでの分析結果を基に、具体的なマーケティング施策を構築するためのフレームワークを行います。戦略構築分析で決定した方向性を、実際の施策として具体化していきます。4P分析4P分析は、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の4つの要素でマーケティングミックスを検討するフレームワークです。マーケティングミックスとは、複数のマーケティング要素を組み合わせて、顧客の販売促進や顧客満足度向上を目指すことです。Product(製品)製品・サービスの機能や品質、デザイン、アフターサービスなどPrice(価格)価格設定や支払い条件、割引制度などPlace(流通)販売チャネルの選択や在庫管理、流通網の構築などPromotion(販促)広告宣伝活動やパブリックリレーションズ(PR)など4P分析を行うことで、4つの要素を相互に連携させた一貫性のある戦略を構築できます。製品、価格、流通、販促の各要素を総合的に検討することで、顧客に対して統一された体験を設計できるためです。一貫性のある戦略を構築し、競合他社との差別化を図りましょう。4C分析4C分析は、顧客の視点からマーケティング要素を捉えるフレームワークです。Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客のコスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の4つの要素で構成されます。Customer Value(顧客価値)顧客が商品・サービスから得られる価値Cost(顧客のコスト)購入価格だけでなく、時間や労力など顧客が負担するトータルコストConvenience(利便性)顧客にとっての購入・利用のしやすさCommunication(コミュニケーション)顧客との双方向のコミュニケーション4C分析を行うことで、顧客目線でのマーケティング戦略を構築できます。顧客のニーズや行動に基づいた施策を設計することで、顧客満足度の向上と長期的な関係構築が可能になります。コンテンツストラテジーコンテンツストラテジーは、各段階における顧客のニーズに応じたコンテンツを、戦略的に設計するフレームワークです。カスタマージャーニーマップの各段階に沿って、適切なコンテンツを適切なタイミングで提供できるよう、顧客とのコミュニケーション戦略を設計します。※参考画像:弊社がクライアントの初期調査で作成したコンテンツストラテジーコンテンツストラテジーを設計することで、ユーザーの感情の動きや行動に合わせたコミュニケーションを行うことができます。コンテンツストラテジーは、コンテンツSEOだけでなく、広告配信やSNSでの発信、セールスの場面など、顧客とのあらゆる接点において活用することが可能です。実際にコンテンツストラテジーを通して、「検討段階の顧客に必要な情報がホームページに不足している」という課題をクライアントと共有でき、HPの改修に取り組んだケースもあります。顧客のカスタマージャーニーに沿って継続的な価値提供を行うことが、信頼関係の構築につながり、売り上げ拡大や事業成長につながります。まとめご紹介したフレームワークをまとめると、市場分析は以下のような流れで進めていきます。市場分析を効果的に進めるためには、適切な順番でフレームワークを活用することが重要です。自社を取り巻く外部環境の分析など、マクロな視点から、マーケティング施策を立案するミクロな視点へと順に分析を行うことで、市場や競合の動向を踏まえた効果的な戦略立案に活用することができます。ただし、フレームワークはあくまで分析の道具であり、目的ではありません。市場分析を始める前に、分析を行う目的を明確にすることが重要です。自社の状況や業界特性に応じて柔軟にフレームワークを活用し、効果的なマーケティング戦略立案を行っていきましょう。