「自分たちの大切な商品やサービスを、きちんとわかってくれるだろうか?」「どこにでも使っているテンプレ対応ではなく、この商品・サービスのためのマーケティングを考えてくれるのだろうか?」はじめて仕事を依頼するマーケティング支援会社に対して、このような不安を抱く方は多いはずです。依頼前の不安を払拭し良好な関係をスタートするため、私たちはクライアント以上に、クライアントの商品やサービスを利用している顧客への理解を深めることが必要だと考えています。本記事では、弊社のメンバーが顧客理解を深めるために日常的に行っている「(自分が)顧客(になる)体験」の大切さについてご紹介していきます。顧客理解とは何か。なぜ大切なのか。まず大前提として、私たちが考える「顧客理解」について説明します。顧客理解とは、商品やサービスを利用する顧客が抱えている課題や不安をはじめとした、気持ち、思考、課題解決のために取る行動、そして顧客を取り巻く環境や状況などを広く、深く、網羅的に理解する行動、です。端的に言えば、顧客の利用(購入)前の動機や、利用中・利用後の気持ちを知ることです。ではなぜ「顧客理解」が大切なのでしょうか?理由1. 「これ良い!」の気持ちが芽生える瞬間を発見するためひとつ目の理由は、お客様の「この商品(サービス)のここが良い!」というポイントを知るためです。どんな商品でもサービスでも、お客様は「良い」と思わなければ買わないし使いません。当たり前と思われるかもしれませんが、私たちはこの「良い」の気持ちが芽生える瞬間を発見するのが大切だと思っています。マーケティング支援をする立場として、どういうときに「買って良かった」「使って良かった」「また利用したい」の気持ちが顧客の中に芽生えるのかを把握することは、効果的なコミュニケーションの打ち手を検討する種になります。たとえば、新商品のチョコレートを扱うとします。実際に食べなくても、味や香りが訴求点になることは容易に想像できますよね。しかし、「仕事中に食べても手につかない」というメリットは体験した人からこそ出てくるものです。クライアントに相談された時、全く知らない商品・サービスだと、そのクライアントの顧客が何を良いと思っているのか、または思っていないのか、判断がつきません。しかし、買ったことや使ったことがある商品・サービスであれば、「この商品ってここすごく良いですよね。こんな点が気に入っていて、買ってよかったと思っていたんです」と顧客視点の話ができます。場合によっては、クライアントが気づいていない商品の良さも提示できるかもしれません。マーケティング支援会社は、クライアントと同じかそれ以上に商品の良さを理解しておく必要があり、そのために顧客理解が必要なのです。理由2. ボキャブラリーを増やすため顧客理解が大切なもうひとつの理由は、その商品・サービスに関する“ボキャブラリー”を増やすことができるからです。顧客と一口に言っても、商品やサービスを利用する前提は各人で違いますよね。たとえばMacなら、仕事で使うつもりの人もいれば、何かのデザインをしたい人、学校の授業で使いたい人などが存在します。自分が商品を買ったり使う体験をすることで、実際に使わなければ気づけなかった使いみちやシチュエーションなど、顧客にとっての利用の選択肢を発見できます。また、使った時の感情、感想、違和感、心配、不安、行動から、新しいマーケティングの打ち手が見つかったり、逆にこの施策は意味がないといった判断ができるようになります。その人が持っているボキャブラリーの中からしか、マーケティング施策をはじめコピー、訴求、クリエイティブは生まれません。考えれる施策も、言語化できるコピーもボキャブラリーの多さに比例します。だからこそ私たちはボキャブラリーを増やすために顧客理解に努めなくてはなりません。クライアントの顧客を理解するために、「顧客体験」の癖をつけるここからは、私たちが実際にどんな顧客体験を経て、クライアントの顧客への理解を深めているのか、具体的な事例をご紹介していきます。※以下の事例はすべて、類似の事業へ変換して記載しております。事例1 家事代行サービスを提供するクライアントの場合当時の私はひとり暮らしで、家事代行サービスを認知はしつつも使ったことはありませんでした。そこで、クライアントを含む5社のサービスを体験してみました。もちろん、使わなくてもある程度のメリット・デメリットは予想できましたが、使ってみたからこそ提案に生かせた視点もあります。一般的に家事代行サービスは働く女性や富裕層がターゲットだと思われがちで、そこに焦点を当てて訴求するブランドが多いです。ただ、自分が利用してみたことで「一人暮らし・男性・ビジネスマン」にも十分ニーズがあると思えたのが発見でした。忙しくて散らかった部屋を掃除のプロが綺麗にしてくれるのはもちろん、掃除の道具を自分で一切用意しなくてよいのも魅力でした。「こんなに手間が減ってラクなんだ」と実感し、どういうときに代行を頼みたくなるのかもより具体的に描けるようになりました。たとえば「家事代行で、いつでも恋人や友人を呼べる部屋に」「仕事が忙しいビジネスマンにこそ、家事代行」のような広告表現の発想が出てきたのも、自分が体験したからこそ。また、競合を何社も利用したことで、良い点・悪い点を比較できました。すごく愛想が悪い会社があったのですが、話しているうちにスタッフが足りなくてものすごく忙しいらしいとわかりました。多忙の理由は給与が低く、みんなすぐ辞めてしまうからだと。逆に、終わったあとにお茶してしまうくらい人当たりの良い人も居て、「料理も作れますよ」といったアップセルの話に繋がったケースもありました。この人ならまた家に来てもらっても良いと信頼を築ければ、アップセルできるんだという発見です。以上の顧客体験は、「給料を高めにしてでも気持ちの良い接客をできる人を従業員として雇用すれば、信頼の獲得と単価アップ、その先にある事業の横展開ができる」というクライアントへの提案に活かしました。事例2 多店舗展開する接骨院グループを経営するクライアントの場合ちょうど腰の不調を感じていた会社のメンバーのひとりに、クライアントと競合グループの両方の店舗に行ってきてもらった事例です。クライアントのサービスは初診が少し高めだけれど施術の質が高いのが特徴と聞いており、確かに丁寧で、ヒアリングもしっかりとやってくれたとのことでした。一方、急速に成長している競合は、細かいヒアリングはしてくれずサービスがやや雑な印象。ただ、早くて安い。体験の結果、私たちはクライアントが大切にしている「一度の来店で治さなければならない」という認識が、必ずしも顧客のニーズと一致してないのでは?と気づきました。深刻に腰が痛いような人は接骨院ではなくそもそも病院に行きます。接骨院に来るのは、あくまで今この瞬間に気持ちが良いとか、ちょっと体が軽くなる体験を求めている人で、おそらくマッサージを受けに行く感覚に近いのではないかと考えました。時間をかけて正確に分析してもらい、しっかりとした施術を受けた結果料金が高いよりも、20分程度で終わって少し体が軽くなり、また明後日も来たくなるくらいの安さ、の方がお客さんとしては価値が高い。これも実際に自分たちでお金を払って体験してみたからこその面白い気づきでした。事例3 マーケティング支援ツールを提供するクライアントの場合マーケティング支援ツールは、すでに多くの競合が存在しています。しかも競合の方が、テンプレートの数などは圧倒的に多い。しかし自分がすでにユーザーとしてクライアントのサービスを利用していたので、不利な面はありつつも勝ち筋を見つけることができました。利用者として日々実感していたのは、クライアントの提供するツールを使うと、テンプレートを使う競合サービスのような他と似たデザインになりにくいということと、かなり洗練されたセンスの良いデザインに仕上げられること。また、アーリーアダプター的な存在の人やベンチャー企業がこぞってクライアントのサービスを使っており、「先進的な人はこっち」のような雰囲気がSNSを通じてできあがっていることも把握していました。どんな人たちが利用しているツールかがわかっていたのは、普段から自分が利用していたからこそ。パソコン上で調べた情報で機能的な競合比較表を作っていただけでは見つからないポイントだと思います。このツールを使っている人=かっこいい。そんな雰囲気を纏いたい人のインサイトを捉えた広告ビジュアルやコピーを設定したことで、想定以上の高い効果を得られました。このように、自分たちがクライアントの顧客となって実際に体験してみると、数字で測れない価値にまで目が向けられるようになります。クライアントの顧客を理解をするための「顧客体験」は、マーケターなら必ずやるべきでしょう。会社の制度として「顧客体験」を推奨していますクライアントの商品だけでなく競合まで含めた「顧客体験」は、いざやろうとすると時間もお金もかかるものです。弊社では制度として、自分の担当クライアントの「顧客体験」にかかる費用を経費で精算できるようにしています。さすがに家や車を買うまでは難しいですが、常識的な費用の範囲内で使えるサービスなどであれば、どんどん体験してみてほしいと思います。世の中には知らない業界やサービスがたくさんありますが、新しいお問い合わせが来たときに「これ使ったことありますよ」と言える人と、「全く聞いたこともないです」と答える人だったら、前者の方が絶対に良い提案ができます。日頃から“ボキャブラリー”を増やそうとリソースを割いている人の方が、マーケターとしては面白いですよね。弊社は、そんな顧客体験に対して先行投資できる人と一緒に働きたいと思っています。文・編集:松下沙彩(note/Instagram)